2011年02月08日
観劇『ライフ・イン・ザ・シアター』at水戸芸術館
去る2月6日、水戸まで行って観劇した『ライフ・イン・ザ・シアター』のことを書こう。
この劇のテーマは役者人生。しかも舞台に立つ役者はたったの2人。まあ、役者の着替えを手伝ったり、道具を運んだりする劇場スタッフも何人か舞台の上に姿を見せるのだけれど、役者として演技を見せるのは実質的に2人だ。シナリオを書いたのはアメリカの劇作家、ディヴィッド・マメット。1976年のシカゴが初演で、日本では1997年に東京で上演されているけれど、水戸で上演するのは初めてらしい。
上演時間は約2時間。その長い時間をたった2人の役者で持たせてしまうのだから凄い。役者がたった2人の劇だと知って、観ていて退屈するかもしれないと最初は思っていたけれど、全然そんなことはなかった。テンポが良くて、場面の切り替えが何度も何度もあって、あれよあれよという間に話が進んでいく。パンフレットによると場の数は26場。役者2人が控え室で着替えていたと思ったら、次の瞬間には観客の前に立っていて、その次の瞬間には着替え室に戻ってセリフの稽古をしていたり、またまた次の瞬間には劇場から出ていきながら「これから飲みに行こうぜ~」なんて話をしている。
いやまさに光陰矢のごとし、というか。舞台の表と裏を駆け巡る役者人生を見事に表しているというか‥‥。
実は私、水戸演劇学校の卒業公演やリージョナルシアターの公演に参加して、水戸芸術館の舞台にも発った経験があるんで、あの世界の雰囲気を肌で感じていた時期がある。だからこの芝居を観て、舞台で演じられていることをあまりにもリアルに感じすぎてしまい、なんだか気恥ずかしいような妙な気分になった。ことに男性控え室の野郎臭い雰囲気が良く出ていたとは思ったけど、年老いてまるで元気なさそうな爺さんの役をやったロバートが控え室に戻ってくるなり、「この毛布もっとよく洗っとけ! 体育館みたいな臭いだぞ!」って怒鳴るシーン、うわ~あのセリフ、オレ的にハマりすぎだよ。あるんだよな~ああいうことって。
あと面白いと思ったのは、セットの凝り方。設定上、役者が客席側に背中を向けて演技をすることが多いせいか、舞台の背景が鏡張りになっている。客席に背中を向けても役者の顔は鏡に映るから、客席からは鏡を通して表側から舞台を観ることが出来る。また鏡に映る暗い客席を、空っぽの客席に見立てて役者が芝居をしたりする。特に救命ボートで海をさすらうシーン、舞台の表と裏がよく分かる見せ方で、見事だった。
舞台の後半からは俳優として上り坂の人生を歩んでいくジョンと、年老いて人生下り坂になっていくロバートの対比が際立って、シリアスな雰囲気になっていく。でも、ラストは意外とあっけなかった。「え、これで終わりなの?」という感じがした。2人の物語はまだまだ続いていくのだけれど、区切りのいいところで「はい、おしまい」という、ラストらしからぬラスト。ラストで大いに盛り上がる芝居を見慣れてきた目からは、シラッとした感じがするけれど、私としてはあのラストの雰囲気が、最後の公演を終えて舞台の熱狂が冷めた後に残るシラッとした雰囲気を連想させて、いい味を出しているようにも思えた。あれも役者人生の一コマ。