2011年05月31日
5月29日、水戸へ
去る5月29日、台風の影響で荒れ模様の天気の最中、私が水戸へ出かけたのは、水戸の演劇仲間の芝居を観にいくためだった。
芝居は水戸の町中にある小さな稽古場で、ささやかに行われた。上演時間は1時間足らずの短い芝居だが、3月11日の大震災の後、水戸の演劇活動は久しく中断していたのだし、芝居を観た後にはこれでようやく水戸演劇の復興が始まるのだなと、改まった気持ちになった。
芝居の後、水戸の街中を散策してみた。水戸駅の北側は高台にあるせいか、地震の被害は思ったよりも目立たない。懐かしい水戸芸術館にも立ち寄ってみたが、以前から告知されていたようにまだ復旧工事中だ。敷地内はひっそりと静まり、人影も見当たらず、空虚な感じがした。
駅の南側を歩いてみると、こちらにはまだ震災の爪跡が生々しく残っている。3月11日から1ヶ月後の4月11日も大きな余震があったそうで、地震の揺れはむしろこちらの方が大きかったとも聞く。この辺りはもともと千波湖が広がっていたのを埋め立てた土地だったらしいが、そのせいで液状化の被害が大きく出たのかもしれない。交差点では地面の沈下で相当な量の水が溜まり、車が派手な水しぶきを跳ね上げて走っている。家の土台だけが沈下せず、回りの地面から浮き上がっていたり、建物と地面の間に隙間が出来てしまった箇所も目立った。歩道の状況も悪く、凹凸が出来て歩きにくい。震災後の補修で取り除かれたとおぼしき石のタイルが、歩道沿いにまだ積み上げられたまま残されている。陰気な天気のせいもあってか、歩くうちに沈痛な気分になってきた。
水戸市役所の近くにはお気に入りのアイリッシュ・パブがあったのだが、久々に飲みに行こうと思って行ってみると店の入居ビルが改装工事中で、店が見当たらない。仕方なく駅近くのサイゼリアで一杯やる。このサイゼリアは水戸演劇学校の打ち上げが行われた店で、私にとっては思い出の場所なのだが、かつて賑やかなパーティーが行われた大部屋は節電で暗く、店もあまり客が入っていない。空虚な気分にひたりながらワインとピザで腹ごしらえしてから、すぐ近くにあるシネコンへ映画を観に行った。
『ブラック・スワン』──水戸で観ようと思っていた映画で、映画が始まるやすごく入れ込んで観てしまった。バレエ界を舞台にした映画だが、やはり舞台芸術ということで自分のやっている演劇にも通じるものがあり、突き放して観られないところがある。クライマックスで披露される、ブラックスワンのダンスは見事で、あのシーンが未だに脳裏に焼きついている。
映画を観た後、またサイゼリアへ行ってワインとパスタで腹ごしらえして、水戸発の上り最終電車で帰宅した。
大震災の後、初めて訪れた水戸。芝居と映画とで高揚感を味わいながらも、現実の街の有様を見て喪失感と空虚感とに襲われ、全体的に気疲れした一日だった。しかし、再生はこの日より始まる。そんな特別な一日だ。